トヨタ式カイゼン手法をオフショア開発に適用すると
ものつくり名人が書いたトヨタ式「ジャスト・イン・タイム」の解説書から、オフショア関係者に役立つ会計のヒントを届けします。この本は製造業を題材とした入門書ですが、ソフトウェア開発にも十分に適用可能だと思います。
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売上金額=1億5000万円の仕事を、日本国内で開発した場合と、中国で開発した場合で、どちらが「儲かるか」、を比較します。
・売上金額=1億5000万円
【日本国内開発】
・上流工程=5000万円
・製造工程=5000万円
・開発日数=3ヶ月+3ヶ月=6ヶ月
【中国開発】
・上流工程=5000万円
・製造工程=2000万円
その他、間接費が1000万円
・開発日数=6ヶ月+4ヶ月=10ヶ月
(ベンダ選定、仕様伝達、トレーニング、検収期間を含む)
開発費から粗利益率を出して比較します。
・日本:1億5000万円 - 5000万円 - 5000万円 = 5000万円
・中国:1億5000万円 - 5000 - 2000 - 1000 = 7000万円
粗利益率を比較すると、中国開発が断然有利です。粗利益率を比べても、中国開発の優位は明らかです。
・日本:5000万円÷1億5000万円 = 33.3%
・中国:7000万円÷1億5000万円 = 46.7%
この計算では、中国開発の方が儲かることが証明されました。ところが、時間概念を加えると、中国開発が「儲かる」とはいえません。
「Jコスト」と呼ばれる本書独自の指標を求めます。詳細な定義は、本書をご覧ください。Jコストは、製造コストに平均リードタイム(単位調整済み)を乗して求めます。
・日本:10,000万円× 6ヶ月=60,000(万円・月)
・中国: 8,000万円×10ヶ月=80,000(万円・月)
Jコスト換算では、日本開発の方が有利です。最初の計算結果から逆転しました。最終判断するためには、Jコストに対して、どれくらいの粗利益をあげているのかという比率を比較します。
・日本:5000万円÷60,000(万円・月)= 0.0833/日
・中国:7000万円÷80,000(万円・月)= 0.0875/日
この指標では、中国の方がぎりぎり「収益性」が高いことが判明しました。オフショア発注の各種リスクを織り込み済みだと仮定すれば、上記ケースでは中国開発の方が「儲かる」という収益計算の結果です。
参考:田中正知「トヨタ式カイゼンの会計学」第8章 中国工場で生産するのは、本当に得なのか?、p190-204、中経出版(2009)
上記は、トヨタ式カイゼン手法がオフショア開発にも適用できると仮定しました。田中正知(2009)のJコスト論によると、単純に製造コストだけを比較して「中国オフショア開発に出すと原価が30%抑えられる」と結論づけるのは早計です。
時間を考慮したJコスト比較によると、上記ケースでは日本開発と中国開発の収益性の差はわずか5%未満に過ぎません。会計上の開発原価が同額でも、工期が違えばJコストは変わります。
工期短縮と稼働率向上は、別概念です。技術者の稼働率を向上させても、収益改善に寄与しない事例はいくらでもあります。厳しい言い方ですが、時間をかけて一生懸命に頑張っても、方向性を間違えれば全く無意味です。
■問いかけ
オフショア事業を評価する際には、原価計算に基づく開発費削減の追求だけでは不十分です。KPI(Key Performance Indicators)は、原価削減ではなく、稼働率でもなく、"time to market"を実現するリードタイムに軸足が移ります。
×:稼働率向上
×:工期削減(部分最適)
△:原価削減
◎:工期削減(全体最適)
あなたは、この主張に同意しますか?
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