留学生を特別扱いしない制度は本当に公平ですか?
偽りの国際化
日本はこの20年間、官僚統制が続き、グローバル化に逆行してきた。自由化されたのは製造業と通信とタクシーだけで、医療、介護、教育、放送、農業はいまだに官僚統制で、資本移動、外国人の受け入れはままならない。また、インドネシア人の介護の受け入れも、今後積極的に外国人を受け入れていく姿勢ではない。
(チャイナリスク研究会/海野恵一)
留学生が日本企業で活躍するために必要な要因は何でしょうか。チャイナリスク研究会を主宰する海野恵一氏は、「閉鎖的な日本企業/排他的な日本社会」が外国人労働者の活躍を阻害する最大の原因だと指摘します。
この手の話題は身近にいくらでも転がっています。沖縄移住の失敗談などは格好の研究材料です。他県からの移住者と沖縄地元住民との軋轢、先に移住して地域にとけ込んだ者と後から移住する者との価値観の衝突、など。
文化はタマネギのような多層構造になっています。オフショア大學では、文化を「3層構造」で定義します。文化の最深部(第1層)は「暗黙の仮定」と呼ばれる目に見えないけど集団で共有する常識です。
文化の最も外側を占める第3層は、目に見えて手軽に操作できる制度や規範で構成されます。中間部分の第2層は、善悪を判断する価値基準です。日本では、企業文化の第2層にあたる価値基準が明文化されないため、多くの外国人従業員を困らせます。
参考文献:
オフショア開発に失敗する方法(ソフト・リサーチ・センター)
オフショアプロジェクトマネジメントSE編(技術評論社)
外国人労働者の活躍を阻害する原因を深く理解するために、オフショア大學では文化三層構造フレームワークを使って「閉鎖的な日本企業/排他的な日本社会」の構造を分析します。
これが、今夜の第30回オフショア開発勉強会のテーマです。
以下、文化の第3層「目に見える制度や規範」に着目して、外国人労働者の活躍機会を奪う原因を分析します。下記ケースを読んで、後の設問に答えなさい。
【ケース】留学生を特別扱いしない=公平!?
ある日本会社では、「年功序列」な給与体系であり、それなりの企業年金や退職金を積み立てています。これは、同社に入社する学生は、将来一度も転職することなく定年退職するまで同じ会社で働き続けることが暗黙の前提です。
同社では、留学生を積極的に受け入れています。同社のウリは、留学生だからといって特別扱いせず、日本人と全く同じ条件で採用・育成することです。留学生を特別扱いしないということは、外国人労働者を終身雇用する前提で人事制度が設計されていることを意味します。
同社の社風は、優れた品質・高い技術力を尊重します。かといって、専門バカと揶揄される「技術一辺倒」の技術者は、同社では評価されません。ソフトウェア技術者であっても、物づくりを体験し、企画や営業と対等に会話して、全人格的に優れたビジネスパーソンこそ一流の証だと考えられているからです。
そのため、同社では、平均的な日本企業と同じように、定期的な人事異動によって従業員は汎用的なマネジメントスキルを身につけます。「年功序列」な企業文化を持つ同社では、過去に30代で部長に昇格した人事はありません。実際、高々入社15年の若手社員に、この会社の部長職は荷が重すぎます。
こうした暗黙の前提は、「10年間は日本企業で働いて、その後は祖国に戻りたい」と考える留学生にとって、経済的に非合理的です。つまり、「10年後の帰国(退社)」を予定する留学生にとって、日本人の新入社員と全く同じ処遇は、経済的な損失を意味します。
日本の厚生年金や国民年金の仕組みは、途中帰国する外国人労働者にとって「極めて不利」な制度になっていることは周知の事実です。全く同様に、終身雇用を前提とする日本企業の賃金体系・退職金・企業年金の仕組みは、途中帰国する外国人労働者にとって「極めて不利」な制度になっています。
■問いかけ
上記ケースを事実だと仮定して、意地悪な質問を投げかけます。
「留学生の採用、育成について特別扱いしない」ことは、あなたの会社にとって本当に公平な人事制度だと言えますか?
一般論ではなく、自社の環境を分析して回答しなさい。
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