オフショア事業診断フレームワーク
ソフトウェア組織の戦略の階層
・企業理念
・企業指針
・企業戦略
・開発方針
・技術
(出典:オフショア教科書執筆チーム)
オフショア大學では、「オフショアプロジェクトマネジメントPM編」という書名の経営者・プロマネ向け教科書を執筆しています。
この教科書は、今年3月に出版されたプロジェクトメンバ向け教科書「オフショアプロジェクトマネジメントSE編」の続編にあたります。
オフショア教科書の第2弾では、日頃オフショア大學に寄せられる多数の疑問に対して、具体的かつ網羅的に回答するよう心がけています。
現在オフショア大學の関心事は「オフショア開発の事業診断」の精度向上です。
個別のプロジェクト診断・評価については、拙著だけではなくウェブ上で公開された無償有償の優れた情報がたくさんあります。各企業とも、“外注管理”の下にパートナー評価制度が実務的に運用されているのはもはや常識です。
ところが、オフショア開発への取り組みを“新規事業”への参入と認識して、定量評価を実施する組織はあまりみかけません。拙著オフショア開発に失敗する方法(ソフト・リサーチ・センター)でも詳しく言及しました。
今年3月に開催された第29回オフショア開発勉強会で、わたしは「オフショア開発によるコスト削減(理想論と現実)」と題した2枚のスライドを使って、オフショア事業診断のフレームワークを紹介しました。
オフショア事業で収益を上げる牽引役を4項目、足を引っ張る要因を1つ。合計5項目によるオフショア事業の簡易診断手法です。
(1) 開発工程の一部オフショア化による人件費の鞘取り
(2)( )の抑制効果
(3) 標準化による開発効率アップ
(4)( )による競争力の向上
(5)( )による収益性の悪化
※3月度オフショア開発勉強会 配付資料 p.16-17 を参照のこと
オフショア事業診断の第一歩は、自社が「何者」であるのかを自覚することです。この自覚を「企業理念」もしくは「企業観」と呼びます。国家なら世界観、個人ならアイデンティティという用語で、それぞれ自分が何者であるかを表現します。
国家:世界観
個人:アイデンティティ=自己同一性(Self Identity)
企業:企業理念、企業観
例えば、中華思想は漢民族の世界観、生涯アイドルは松田聖子のアイデンティティ、水道哲学はパナソニック(旧松下電器)の企業理念です。
企業経営で最も大事な戦略の上位概念こそが「企業理念」です。会社によっては、ビジョン、ミッション、使命、社是などで総合的に表現されます。
オフショア大學では、企業経営の“戦略の階層”を以下の順番で定義します。上位ほど概念的、下位にいくほど具現的であることは言うまでもありません。
・企業理念
・企業指針
・企業戦略
・開発方針
・技術
米国のコンサルティング会社「マッキンゼー社」の調査によると、ソフトウェア企業(組織)には4つの異なる路線があることが示され、路線ごとにそれぞれ異なる領域に注力すべきだということが分かりました。
・低価格路線(Cost champions)
・革新路線(Innovators)
・職人路線(Perfectionists)
・インテグレータ路線(Integrators)
例えば、低価格路線を標榜するソフトウェア企業では、1に標準化、2に標準化、3,4がなくて5に標準化。全ては、原価削減のため。
上記4つの路線は、第1層「企業理念」から導かれて、第3層「企業戦略」で決定されます。例えば「世界最高の検索エンジン」という企業理念を掲げる情報サービス企業では、おのずと革新路線もしくは職人路線が選択されます。(企業買収の好き嫌い、技術指向/デザイン指向の強弱などによって、この会社の路線は決まります)
オフショア大學では、戦略の上位概念から整理することによって企業のオフショア事業を診断します。そして、当該診断フレームワークに則り、オフショア事業の牽引役についてそれぞれ分析を深めます。
もっとも表面的なオフショア牽引役「(1) 人件費の鞘取り」に関しては、人材ポートフォリオ分析を実施します。「(3) 標準化」に関しては、開発プロセス改善プログラムを実施します。
オフショア事業診断プロセスの詳細は、新刊「オフショアプロジェクトマネジメントPM編」の第3部と第4部に記載する予定です。
■問いかけ
<問1>
あなたの組織の“戦略の階層”を完成させなさい。
回答例:
・企業理念(早い、安い、うまいの三拍子揃った便利屋)
・企業指針(ソフトウェア開発はサービス業だ)
・企業戦略(フランチャイズ型の低価格路線)
・開発方針(単品勝負にかけたフレームワーク再利用)
・技術 (Rubyに特化)
<問2>
あなたの組織の“戦略の階層”を分析して、オフショア推進の課題を抽出しなさい。
回答例:
我が社に製造アウトソーシングの開発手法は適用不可。したがって、コスト削減を追求するオフショア開発には手を出さない。海外に優秀な技術者がいれば、名指しで仕事をお願いすることはある。今後は、市場開拓のパートナーとして、中国企業と提携したい。
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