« 品質意識を高めたい、集合研修とeラーニングの比較 | Main | 悪い報告の三大悪(隠蔽/嘘/言い訳) »

組織が大きく変わる「最高の報酬」 トータル・リワードを活用した行動科学マネジメント

トータル・リワード(Total Reward)とは、金銭報酬と非金銭報酬を組合せた総合的な報酬マネジメント体系です。元々は、成果主義の不備や間違った運用による競争力低下の反省から開発されました。従業員を組織に惹きつけて、定着率を向上させることが狙いです。トータル・リワードそのものは新しい概念ではなく、従来から検討される人事制度の改善点を統合的に再構築した報酬制度のイノベーションと考えられます。

行動科学マネジメントでお馴染みの石田淳著では、Rewardを単数形のトータル・リワード(Total Reward)として紹介されました。一方、人事コンサルタントの第一人者である川上真史は、トータル・リウォーズ(Total Rewards)と複数形を片仮名表記します。拙著オフショアプロジェクトマネジメント【PM編】では、出典元の川上真史先生を尊重して、複数形のトータルリウォーズを採用しました。今後、トータル・リウォーズとトータル・リワード、どちらの言葉が定着して一般化するのでしょうか。

非金銭的報酬の6要素=ABCDEF

A(Acknowledgement)感謝・認知
B(Balance of Work and Life)仕事と生活の調和
C(Culture)企業文化や組織の体質
D(Development [Career/Professional])成長機会の提供
E(Environment)労働環境の整備
F(Frame)具体的行動の明確な指示

前半の5つは、米国機関が提唱するフレームワークです。この本では、6つ目の非金銭的報酬F(frame)を追加することで、独自性を醸し出します。こうしたひと手間が、ちょっとした差別化を生む玄人コンサルの匠の技です。

本書では、多様化した時代こそ、マネジメントはシンプルであるべきだと説きます。そのためには、人に仕事をつけるのではなく、仕事に人をつけるべきだと主張します。前者が名著ビジョナリーカンパニー2的な発想なら、後者はマクドナルド的な標準オペレーション重視の発想です。

105ページから「悪い報告をあげさせるたった1つの方法」という興味深い一節がはじまります。

正解は、「悪い報告をあげた従業員を褒める」です。報告内容ではなく、報告した行為そのものを褒めます。すなわち、従業員が悪い報告をあげてきたら、迷わず「A感謝・認知」に相当する非金銭的報酬を与えるべきだと説きます。

行動科学マネジメントなんて普段聞きなれない用語かもしれませんが、極限すると「行動に着目」した組織行動(organizational behavior)のマネジメント体系です。組織科学マネジメントでは、具体性の法則と呼ばれるMORSの法則(四条件)を満たすものだけを行動と呼びます。

・Measured : 計測できること
・Observable : 観察できること
・Reliable : 信頼できること
・Specific : 明確化されていること

<例>行動ではないもの
「モチベーション高く仕事に取り組む」
「チームメンバーの健康に留意する」
「コスト削減を徹底する」
「業績を上げる」
「販売計画を作る」

<例>MORS条件を満たす行動
「三名のチームメンバーで、木曜日の午後6時までに、新商品の販売店候補を300店リストアップする」

日本のシステムインテグレータは、年功序列による報酬体系を採用します。最近は、「年下の上司」「同期でも給与格差が拡大」が流行っていますが、米国社会や中国IT企業の実態と比べると、やはり日本は相変わらず年功序列です。

かつての高度成長期、大半の日本企業では「金銭報酬を一律支給」する制度を好みました。みんな、モノに飢えていたので手厚い外的報酬を望んでいたからです。高度成長期はみんなが一律に仲良く豊かになる時代なので、あえて個人差をつける必要はありませんでした。

高度成長に終わりを告げると、次は「成果主義」の旗印の下、個人差をつけた報酬が好まれるようになりました。ただし、相変わらず「外発的要因が強い金銭報酬」に主眼が置かれています。これは、人事制度改革を主導する人事部の都合によるものです。人事部自身も、「目標管理」で厳しく縛られるようになったので、目標達成度合いが一目瞭然の外的報酬に偏ったのが原因です。オフショアPMOが、一見無意味な数値目標を掲げて現場を苦しめる構造と同じです。

日本では、昔から「一律」が大好きでしたので、社員旅行やQCサークルなど「内的報酬の一律支給」は存在しました。ところが、今は下火になっています。

トータル・リワードでは、非金銭報酬を個人差をつけて支払うための制度と運用の仕組みに主眼を置きます。当然ながら、これらは体系づけられた報酬ではありません。かつて、中国に進出した日系企業では、日本研修制度を餌に優秀な中国人従業員を惹きつけようとしました。ところが、研修後もすぐには活躍機会が与えられないため、個別内的報酬を与えられた優秀な従業員の多くは離職しました。

ところが、退職者に話を聞いても、会社を辞める本当の理由は教えてくれません。実際、オフショア拠点で公式に意識調査を実施すると、ほとんどの場合は日本人の感覚よりも常に高い評価が返ってきます。実は、日本で職場環境の満足度調査を実施すると、世界中で最も低評価を示す傾向があります。反対に。中国では世界的に最も高評価を示す傾向があることが知られています。その原因は不明ですが、公式アセスメントでは外国人従業員の本音は拾えません。そして、これが、オフショア開発でPDCAが正常に回らない大きな原因の1つとなっています。

トータル・リワードを活用することで、「やる気」「意識」「風土」といった目に見えない組織深部の根本課題に斬り込みます。そして、従業員が一人ひとり異なる働く意義や達成感・報われ感を取り戻し、組織が活性化して成果につながる積極行動が増えるようになります。

|

« 品質意識を高めたい、集合研修とeラーニングの比較 | Main | 悪い報告の三大悪(隠蔽/嘘/言い訳) »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



« 品質意識を高めたい、集合研修とeラーニングの比較 | Main | 悪い報告の三大悪(隠蔽/嘘/言い訳) »