先日たまたま古本屋で手に取った一冊を引用しつつ、日本語コミュニケーションの面白さを論じます。

間接的に表現したら、もっと心証が悪くなった
納品後にバグが発覚するなんて、貴社は無責任だ。
納品後にバグが発覚するなんて、いかがなものか。
作業遅延は明らかなのに春節に休むのは、まずいと思う。
作業遅延は明らかなのに春節に休むのは、いかがなものか。
直接的な非難を避けさえすれば、それだけで相手の心証を悪くしないと思い込んでいる人は、「いかがなものか」という発言によって、かえって自分が感じの悪い人間になっていることになかなか気づかない。(p52)
→自分自身を振り返ると、私も職場で「~でしたっけ?」などと曖昧かつ間接的な表現を使います。さすがに外国人を相手に「いかがなものか」を使った記憶はありませんが(幸地)。
日本語は文法的な精密さに欠ける
ドライブが好きだという話を英語でしているとき、
“my car”という単語を使ったら、ネイティブの教師から
「あなたは結婚しているんでしょう。だったら、たとえ
自分しかハンドルを握らない車でも“my car”ではなく
“our car”と言わなければなりません」と注意された。
「私の車」ではなく「私たち夫婦の車」だというわけだ。(p94)
→私の異文化コミュニケーション講座でよく使うネタの1つに、「ウチ」と「ソト」そして「ヨソ様」の使い分けがあります。「ウチ」の適用範囲は、相手との関係性によって変化します。ウチの会社/ウチのヒト/ウチの車/ウチでは違います/・・・
「反省」と「謝罪」の区別がつかない
「申し訳ございません」には基本的な欠陥がある。「申し訳ございません」は、言葉で謝るよりも、まず土下座をしろ、という謝罪の中身より形式重視の思想から生まれた言葉だ。「申し訳」=「言葉による釈明」は何も「ございません」というわけだ。(p118)
→余談ですが、中国企業では「反省会」という言葉そのものが嫌われます。改善活動が大好きな日本人はご注意を。
日本語の謝罪の言葉は不便
「おわび申し上げます」は、日本人感覚からすればちょっとクールすぎる。「ごめん」「すいません」もくだけすぎ。日本語には、意外にも、公式の場で通用するお詫びの言葉がない。(p120)
→今でも日本企業の一部では「男は黙って・・・」の浪花節が好ま れます。ところで先日、中国人SEから「浪花節」って何ですか? と質問されて、一瞬まごついたわたし(幸地)。
日本語で役立つ、公式の挨拶言葉は「おはようございます」のみ
朝、平社員がトイレで用足し中、隣に専務が立つ。そこで二人並んで前を向きながら、平社員はやや緊張しながらも「おはようございます」と挨拶する。専務は「おう」と前を向いたまま応じる。ところが、同じ状況が昼だったら、平社員は専務に何と挨拶するか?(p122)
→後述する<問1>を参照。
日本語の感謝の表現はとても言いにくい
関西弁なら「おおきに」、英語なら「サンキュー」で軽く済ませる局面でも、日本語の「ありがとう」「ありがとうございます」だと違和感を覚えてしまう。日本の標準語は、構造上の欠陥から自然なコミュニケーションをやりづらくしている。
→私が中国で服務員のサービスに「謝謝」と言うと、必ず「どういたしまして」という意味の中国語が返ってきます。日本人の私にとって、この対応はかなり嬉しい。この感覚、分かりますか?
参考:吉村達也(2008)、その日本語が毒になる!、PHP研究所 (★★★☆☆:幸地評価)
長年の作家活動から洞察した日本語の弱点を鋭く指摘、コミュニケーション論として新境地を拓く。本書から引用した一部を読みやすくするために修正しました。
■ 問いかけ
<問1>
朝、平社員がトイレで用足し中、隣に専務が立つ。そこで二人並んで前を向きながら、平社員はやや緊張しながらも「おはようございます」と挨拶する。専務は「おう」と前を向いたまま応じる。ところが、同じ状況が昼だったら、平社員は専務に何と挨拶するか?
次の選択肢から1つ選びなさい。答えを選んだ理由も述べなさい。
a)「こんにちは」
b)「お疲れ様です」
c)「どうも」
d) 黙って挨拶しない
<問2>
以下の空欄[ ]を適当な文章で埋めなさい。(参考:p107)
商品にクレームがあって店を訪れた客が「責任者を出せ」と要求
するとき、[ ]に主眼がおかれている。
<問3>
平均的な日本人が下記の二重否定を使う理由を述べなさい。(参考:p52)
・あなたの意見に反対でないといえばウソになる。(二重否定)
cf.あなたの意見には反対だ。
・私の責任ではないといえばウソになる。(二重否定)
cf.私の責任だ。
<問4>
「その日本語が毒になる!」の著者吉村氏は、日本語の標準語には、いくつかの欠陥があると主張します。例えば、英語の冠詞と比較して、日本語の文法は精密さに欠けると論じます。あなたは、この意見に賛成ですか。それとも反対ですか。答えの根拠を述べなさい。
ps.
低コンテクストかつ論理的なコミュニケーションの大切さを主張する本書ですが、なんだか非論理的な主張が目立ち、不思議な世界観が展開されています。
というわけで、面白さ重視なら四つ星。学習重視なら二つ星。
本書タイトルは、恐らく出版社が名付けたと思います。というわけで、著者の意図は日本語コミュニケーションのTips整備にあると勝手に判断しました。Tips集だと割り切れば、私はこの本を十分に楽めます。(幸地評価)
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