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「なる」は使用禁止

今日は、日本語の「なる」は微妙なニュアンスが伝わりにくいため、できるだけ使わないほうがよいと主張します。背景や事例に興味のない人は、以下の説明を飛ばして、いきなり後半の「問いかけ」にお進みください。

参考過去記事 例文「レビュー指摘数が100件になる」


日本語の「なる」は、主語のない文章でよく用いられて、状況があたかも自然的・自発的に変化したような雰囲気を醸し出します。主体者が明確な動詞「する」の代わりに、「なる」がよく用いられます。


・このたび中国に転勤することになりまして・・・
(このたび私は中国に転勤しますので・・・)

・脱法ドラッグの名称が「危険ドラッグ」になりました・・・
(新名称「危険ドラッグ」に変更しますので・・・)

・(中国納品物へ)仕様エラーになっているようですが
(仕様エラーですが・・・)

・お買い上げは合計1,080円になります。
(1,080円です)


通訳の専門教育を受けていないブリッジSEが、このような「なる」に出くわすと、微妙なニュアンスをうまく翻訳できないことが少なくありません。

なぜなら、上記の四例の「なる」は、いずれも主語/主体をわざとぼかして、状況が自然に「そうなっている」ことを示唆するために使われているからです。

ただし、「なる」を含む上記の例文は全て正しい日本語です。ですから、日本人同士の会話では、これからも安心して使い続けられます。誤解なきよう、お願い致します。


余談ですが、「なる」には尊敬の意味も含まれます。

例「上様のおなり」

→上様の如き高貴の存在は、決して主体的意志によって「来る」のではなく、あたかも果実が実るように忽然と「なる」べきだ。


以上から、日本独特の文化と言葉遣いの留意点が推測できます。

・日本語は、「なる」を使って、動作の主体をわざとぼかし、あたかも状況が自然にそう「なった」と暗示する傾向がある。
・「なる」を使うと、関係者の立場や感情を隠せる
・「なる」を使うと、話し手と聞き手の対立が避けられる
・「なる」を使うと、丁寧さや尊敬のニュアンスを醸しだせる


さて、ここからが、異文化コミュニケーションに役立つ話につながります。いささか常識の部類に属する知識かもしれませんが、ご了承ください。

・英語は、話し手と聞き手は互いの背景を知らない前提
・日本語は、関係者はみなムラ社会に属し文脈を共有している前提

・英語では、I と you を明確に区別する習慣
・日本語では、あえて主語/主体をぼかして状況描写する習慣

・英語では、話し手の主体的な意志を表明する傾向
・日本語では、個人の意志より、状況の自然変化を示す傾向


例えば、冒頭の「このたび中国に転勤することになりまして」をオフショア大學英語講師に英訳させたら、当然のように主語 I を用いました。元の日本語には「私」に相当する言葉は全くありません。


オフショア大學講師は、更にこう補足説明しました。

もし「このたび中国に転勤することになりまして・・・」をより自然な英語に訳すなら、発言者と聞き手の関係を明確化して、発言者の意志や感情を表現したいところ。

例えば、送別会の挨拶であれば、「皆さん大変お世話になった」とか「今夜の送別会に深く感謝する」とか。

あるいは、同期との飲み会で愚痴をこぼす場面なら、「中国に飛ばされて悔しい」とか「あの上司から離れられてせいせいする」など。


ところが、日本語では、あえて自分の意志や背景情報を隠したまま、あたかも運命で定められたように「中国転勤になった」と表現します。聞き手が話し手の心情を察するべきであり、余計な詮索は野暮だ、と考えるのが模範的な日本人ビジネスパーソンの態度ではないでしょうか。


繰り返しますが、日本人同士の会話なら「このたび転勤することになりまして・・・」で十分に会話が成立します。話し手と聞き手は背景情報が十分に共有されている前提なので、あえて「私」の意志や心情を詳しく描写する必要はありません。

もし、日本人が「私」と「あなた」を明確に区別し、「あなた」に向かって「私」の背景をわざわざ話したら、余計な衝突を招く恐れがあります。


以上の観点から日本語と英語は次のように対比できます。

・日本語=モノローグ言語
・英語=ダイアローグ言語


ここで、モノローグ言語とは、対話においてほとんど聞き手を想定しない極めて独自のあり方を示す言語だと定義します。モノローグは一人芝居の意味でも使われます。


日本語の「なる」は、日本語がまさにモノローグ言語であることを示す有力な証拠の1つです。

そうであるがゆえに「なる」は危険です。もし、オフショア開発で「なる」を多用すれば、対話者の外国人に正確な意図が伝わらない恐れがあります。もしかしたら、全く通じないよりも危険な状況かもしれません。

よって、オフショア開発プロジェクトの仕様説明や進捗確認など厳密さが要求される局面では、日本語「なる」をできるだけ使わない方が望ましいでしょう。

最後に、危ない「なる」の例を3つ紹介します。


【危ない「なる」】

レビュー指摘数が100件になった
・先日検討したGUI設計ですが、このように修正となりました
・知識移転の教育費用はオフショア側のご負担になりますが


■ 問いかけ

以下の「ある」が危ない理由を説明しなさい。

<問1>先日検討したGUI設計ですが、このように修正となりました
<問2>知識移転の教育費用はオフショア側のご負担になりますが


以下を微妙なニュアンスを保ったまま英訳しなさい。

<問3>仕様エラーになっているようですが
<問4>先日検討したGUI設計ですが、このように修正となりました

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