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オノマトペを外国語訳する一工夫

大和言葉の一部は、外国語に直訳できません。日本語のオノマトペは、そのほとんどが外国語に直訳できないでしょう。直接原因は言葉の壁ですが、根本原因は明らかに「文化の違い」です。

さらに、大和言葉ではないものの、日本独自の慣用表現も外国語に直訳できません。例えば、「下心がある」や「腹案がある」など。

オフショア大學では、オノマトペや日本的な慣用表現を「正しい日本語」だと認めた上で、外国語に翻訳しやすい別の日本語表現に書き換える訓練方法を提唱します。

この作業を「中間日本語に書き換える」と表現します。


・さっとすませる → 手早く、粒度を荒く、でも網羅的に
・すむ → 修正されたモジュールを単体試験対象に追加する
・下心 → ◯◯◯な意図


このように、いかにも日本的な表現を中間日本語に書き換えるには、行間に隠れた背景=前提条件を的確に言葉で書き表さないといけません。

例えば、前出のオノマトペ「さっと」には、3つの隠された背景があります。もし、作業指示で「さっと」が用いられたら、3つの評価基準が隠されている、と頭の中で即時変換するとよいでしょう。

1)速度
2)粒度
3)網羅性


この3つの評価基準は、状況によって全く異なります。通常、上長から「さっと」と言われたら、(1)対応速度を優先しがちです。ところが、対応箇所に偏りがあると(3)網羅性が犠牲になり、下記事例のように作業指示を満たさない恐れがあります。


●「さっと」が通じない会話例

上司「会議前に机をさっと拭いておいてください」
部下「はーい」

・・・さっとひと拭き

上司「コラ!残った水滴で配布資料が濡れてしまったぞ!」
部下「私は、言われたとおり、さっと拭きました」

上司「机にアイスコーヒーの水滴が残っているから、それを拭いて資料が濡れないようにする。そんなことも気づかないのか!」
部下「すいません」

なお、今日の内容は下記文献をヒントに構成しました。

荒木博之(1994)、日本語が見えると英語も見える、中公新書

■ 問いかけ

<問1>大和言葉「すむ」に対応する漢字を複数挙げなさい。
<問2>大和言葉「すむ」のコアイメージを調べなさい。
<問3>「みる」「とる」「やる」のコアイメージを調べなさい。
<問4>日本的慣用表現「下心」を中間日本語に書き換えて、さらに英訳しなさい。

以下は、大和言葉やオノマトペを語る意義(うんちく)です。興味ないは、読み飛ばしてもらって構いません。


オフショア開発で使われる日本語の会話や文章は、外国人技術者に伝わりにくくて、いつも苦労します。

その原因は以下のように分類されます。

1.そもそも日本語として不適切だから
2.日本語としては適切だが、外国語に翻訳しにくい


2.は更に細かく分類されます。

2-1.言い回しや文章全体が高コンテクストだから
2-2.単語や短い文節レベルで、既に外国語に翻訳しにくいから


2-2.を更に細かく分解します。

2-2-1.業界用語、専門用語、社内や内輪で使う略語
2-2-2.カタカナ外来語の乱用
2-2-3.日本独特の概念を表す言葉


2-2-3.を最後まで分解すると、こうなります。

2-2-3-1.オノマトペ
2-2-3-2.オノマトペ以外の大和言葉
2-2-3-3.それ以外の日本独自の慣用表現

※それなりに知恵を絞って分解したつもりですが、言語学的見地から不適切だ/間違い、などの指摘があるかもしれません。


さて、ここで言葉を定義します。

大和言葉とは、古くから日本列島で用いられる日本固有の言葉です。要するに漢語と外来語をを除いた大半の言葉です。2-2-3.では、外国人には理解しにくい日本独特の概念を表す大和言葉に着目します。

オノマトペとは、擬音語と擬態語を総称するフランス語由来の外来語です。日本語では擬声語(ぎせいご)と言いますが、本誌では語学教育でお馴染みの「オノマトペ」の方を使います。


オフショア開発未経験者が、外国人技術者とのコミュニケーションで生じる「言葉の壁」や「文化の違い」を手っ取り早く体験するには、平仮名で表記される大和言葉と漢字の対応関係を考察するとよいでしょう。


例えば、大和言葉の「とる」「みる」を考察。

・「とる」に相当する漢字は? → 取/摂/採/捕/執/撮
・「みる」に相当する漢字は? → 見/観/診/視/看


このように、一つの大和言葉に複数の漢字が対応します。一体なぜでしょうか。

実は、大和言葉「とる」や「みる」には、それぞれ漢語で表現できる微妙な違いを包含する1つの意味がある、と考えられるからです。

オフショア大學では、「とる」「みる」が持つ言葉の根源的意味をコアイメージと呼んでます。コアイメージは、大和言葉だけではなく全ての言葉に備わっています。日本語だけではなく、英語や中国語にもコアイメージは存在します。


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過去、受験英語に真面目に取り組んだ人は、日本と英語で一対一対応しない単語をいくつか知っているでしょう。これまでにも、オフショア開発で使われる以下の事例を紹介しました。

・管理
・責任
・評価


同様に、日本語と中国語で意味が一対一対応しない同形異義語についても、たくさん紹介しました。

・愛人
・大丈夫
・曖昧
・問題

参考:現場で最も誤解を生みやすい同形異義語

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