国内老舗ベンダーが外資系に食われる

オフショア大學への相談より。

私は自社パッケージ製品を核とするソリューション提案営業をしています。

手前味噌ながら、製品の完成度には自信があります。パッケージ単体導入でもお客様は満足してくれますが、ちょっとしたカスタマイズを加えたソリューションが当社最大のセールスポイントとなっています。

ところが、最近、外資系ITサービスプロバイダーが私たちを脅かすようになってきました。

彼らはカスタマイズを伴う日本的なパッケージ導入を「悪」だと決めつけて、欧米市場で実績のあるクラウドサービスを担いで日本企業に次々と営業をかけています。

手間隙かかるパッケージのカスタマイズではグローバル対応できない、ノンプログラミングで簡単に拡張できる彼らのクラウドサービスこそが時代の潮流である、と営業しているようです。

さらに、どうしても個別に作り込まないといけない機能があれば、外資系傘下の海外拠点に格安でオフショアさせると豪語しています。

残念ながら、一部の大手顧客が外資系の営業トークに乗せられて彼らのサービス導入を決定してしまいました。


当社は、この道ウン十年の老舗ベンダーなので、日本市場を裏の裏まで知り尽くしています。日本企業では、外資系の営業トーク通りに事が進むはずがありません。なぜなら、彼らの標準機能では、顧客要望をすべて満たすことなんて到底できないからです。

すると当然ながら、それなりのカスタマイズが発生します。彼らはカスタマイズ作業を傘下の海外拠点にやらせると言っていますが、そもそもオフショア開発なんて普通にやっても失敗することが多いはずです。

当社営業陣は、外資系のクラウドサービス導入は必ず失敗すると確信しています。


でも、マーケティングの教科書にも載るように、必ずしも品質の良いものが勝つとは限りません。

当社でも、以前から海外パッケージ製品を警戒していました。ところが、市場の関心はあっという間にクラウドに移ってしまい、正直かなり困惑しています。この状況をどう乗り切ればいいでしょうか?


■ 問いかけ

<問1>相談者のライバルとなる外資企業は、どのようなセールトークを使って日本市場に参入したと思いますか?

<問2>老舗ベンダーである相談者の会社に対する、日本企業の潜在的な不満を予想しなさい。

<問3>相談者の会社では、この状況をどう乗り切ればいいでしょうか?


*Hint 1. オフショア大學公式メールマガジンをご覧ください

*Hint 2. オフショア戦略セミナー (2017/8/7実施)でもこの問題のヒントを扱います

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翻訳精度を高めるチェック項目(やってみた)

最近、読んだ論文より。

オフショア開発では、設計者の文書作成スキル不足や書き癖などにより伝達ミスが多発します。そこで32種類のチェック項目を設けて、設計書に記載された文章を自動診断するアルゴリズムを考案しました。

実際のオフショア開発プロジェクトで用いられた文章を使って、市販される既存ツールと比較実験しました。その結果、提案方法によって、仕様に関する問い合わせが38%減少、単体テストのバグが25%減少したことが確認されました。

特に、翻訳精度に大きく影響を与える下記5種類のチェックで、考案したアルゴリズムは威力を発揮しました。

・文の長さ
・動詞に対する必須格の省略
・助詞の省略
・多義性を持つ助詞の使用
・修飾関係の曖昧性


参考:日立製作所(2016)、オフショア開発におけるドキュメンテーション支援技術の効果、情報処理学会78回全国大会


■ 問いかけ

<問1>オフショア大學では「動詞」に着目することで日英翻訳の精度を大幅改善させる方法をいくつも提案しています。本文で紹介した論文でも、一部の動詞を「NGワード」に指定することで翻訳精度の向上を図っています。一体どのような方法だと思いますか?

※参考: このアイデアは、欧州の航空宇宙業界で整備された英文ドキュメント作成ガイドラインからヒントを得ています。

the ASD-STE100 Specification
英訳/画像を削除するは clean up or remove?
英訳/削除できないようにする


<問2>かつて、ビジネス英語講座では「同じ言葉(動詞)を繰り返し使うのは幼稚な印象を与える。できるだけ別の言い回しを使いなさい」と指導していました。ですが、この教えは問1で紹介した考え方と矛盾します。この矛盾をどう理解すればいいでしょうか。


<問3>翻訳精度に影響を与える特徴をできるだけ多くあげなさい。本文では5種類が例示されています。

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要求分析のオフショア成功要因(文献)

最近、読んだ論文より。

要求分析フェーズのオフショアを成功させることは、重要な挑戦課題です。そこで3つの問いかけのヒントを探ります。

(1)要求分析のオフショアは本当にうまくいくだろうか?
(2)要求変更はオフショアの成功にどう影響するか?
(3)要求分析のオフショアを成功させる重要な要因は?


まず、皆が一番知りたい「要求分析のオフショアは本当にうまくいくだろうか?」について。この論文の結論は「Yes」。ただし、さすがにコスト削減はほとんど期待できません。

実は、上流工程で頑張って要求変更を抑えようとしてもプロジェクト成功にはさほど影響しません。

やはりアジャイルは効果的です。特に上流工程では( a )に優れたコーディネータを配置すべきです。

参考:Vanita Yadav et al. (2016), Considerations for Effective Requirements Analysis in Offshore Software Development Projects: Lessons from Multi-method Research, CAIS

■ 問いかけ

<問1>上記の括弧( a )に入る言葉を選択肢から選びなさい。

1. オンサイト側
2. オフショア側
3. PMO
4. 経営陣

<問2>上流工程で頑張って要求変更を抑えようとしてもプロジェクト成功にはさほど影響しません。一体なぜでしょうか。

<問3>要求分析のオフショアで活躍するコーディネータの人物像を描きなさい。

*Hints はオフショア大學公式メールマガジンをご覧ください。

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海外でも日本並み品質なのに値下げ要求される

オフショア大學への相談より。

私は中堅SI企業のセールスエンジニアです。

近年、当社はアジア新興国に進出するお客様に小判鮫のようにくっつき、現地でのシステム構築や保守運用を請け負っています。

場所はアジア新興国であるにも関わらず、システム要件やサービス品質は日本にいるときと同等水準が求められます。

それなのに「ここはアジア新興国だから」といって、お客様の現地法人からは大幅な値下げ要求が突きつけられています。

現地人件費の安さを考慮すると、私も多少の値下げはやむを得ないと感じています。とは言え、現地人材を使いながら日本と同じような高品質サービスを提供し続けられるかどうかは甚だ疑問です。


■ 問いかけ

<問1>この後、相談者がとるべき対応を検討したい。可能性のある選択肢をすべて洗い出しなさい。

例:選択肢1:値下げに応じる
  選択肢2:値下げに応じない
  ・・・

<問2>もし、値下げに応じたときのリスクを挙げなさい。

<問3>もし、値下げに応じないと決断したなら、お客様の現地法人に対してどのような便益を提供しますか。トレードオフやギブ・アンド・テイクを意識して考えなさい。


* Hints はオフショア大學公式メールマガジンをご覧ください。

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海外代理店による初のパッケージ導入

オフショア大學受講生からの相談より(※)。

私の会社では、10年間の取引実績がある中国オフショア開発委託先と販売代理店契約を結んで、自社パッケージ製品の中国国内ソリューション展開を図っています。

今年度の導入目標は5件ですが、実績は1件にとどまっています。

実績1件は、中国オフショア開発委託先の人脈を使って、ある国営企業の系列会社に試験導入しました。

試験導入といっても、実際には相応のカスタマイズが発生します。

そこで中国代理店では、不慣れなソリューション案件を成功させるために、日本向けオフショア開発で実績あるリーダー陳さんを客先に出向させて常駐作業させることにしました。

陳さんは、客先で頻発するカスタマイズ要求に現地でリアルタイムに応えることにしました。

ところが、客先で実際に起こっている多くの出来事は、日本側に伝わってきません。

対日業務で大活躍したリーダーが現場を指揮しているはずなのに、状況はなかなか好転しません。

このままでは、日本側からの支援も滞ってしまいます。

そこで急遽、日本人担当者が中国に飛んで、現地状況を確認することになりました。

現地に入ってプロジェクト点検を始めた日本人担当者は、現場のあり得ない状況に思わず言葉を失いました。

※機密情報保持のため話をかなり脚色しています。どうかご了承ください。


■ 問いかけ

<問1>現地でプロジェクト点検を始めた日本人担当者が真っ先に目撃した「現場のあり得ない状況」とは何だと思いますか? 


<問2>対日業務で大活躍したリーダーが現場を指揮しているはずなのに、この試験導入案件では苦労しています。なぜだと思いますか?


<問3>販売代理店契約を結んで「年間導入目標5件」を掲げた現地パートナーですが、このままだと目標達成できません。この後、事態はどう進展するかを予想しなさい。


問いかけの Hints はオフショア大學公式メールマガジンに記載されています。

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凡人による英文規格書読解の流れ

前号のおさらい。

与那嶺茂雄(仮称)さんは、ある通信機器メーカーからの下請け開発に従事する平凡な組込系ソフトウェア技術者です。
近年、与那嶺さんは英文で書かれた規格書を読む機会が増えるようになりました。
英文を頭から全て理解している訳ではありませんが、機能設計に必要な情報は過不足なく抑えられています。
お世辞にも英語が得意とはいえない与那嶺さんは、どうやって英文規格書をすらすらと読解しているのでしょうか。


前号の続き。

与那嶺さんが英文規格書を読解する手順を簡単に紹介します。
まず、英文規格書を読まざるを得ない状況に追い込まれる流れから。


1. 顧客から新機能を提案するよう依頼を受ける

2. 日本語でネット検索して新機能の概要を把握する

3. 新機能が定義された規格書の日本語訳を探すが、適当なモノが見つからない

4. 英文規格書を探してローカルPCにダウンロードする


次に、与那嶺さんが本格的に英文規格書を読む流れを示します。

5. 目次から新機能が記述された箇所を限定

6. 熟読すべき文章量を概算して次の戦略を立てる


ここまでの Steps 1-6 では高度な英語力はほとんど要求されません。当該領域の知識を持つ技術者なら誰でも簡単にできるはずです。この後から本格的な読解作業に入ります。

7. 機能仕様が解説された図面を探す

8. 図面の近くにある熟読すべき文章を特定する

9. 英文規格書を読解する作業量を見積もり

10. ようやく読解に着手

以上です。


■ 問いかけ

<問1>なぜ、与那嶺さんは英文規格書を読む際、真っ先に目次を見るのでしょうか?(Step 5)

<問2>図面の近くにある「熟読すべき文章」とは?(Step 8)

<問3>英語が苦手な与那嶺さんはどうやって「熟読すべき文章」を特定していると思いますか?(Step 8)

<問4>「作業量見積もり」の内訳を予想しなさい(Step 9)


問いかけのヒントはオフショア大學公式メールマガジンに記載されています。

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「必ず」と「絶対に」

オフショア大學受講者のご意見より。


私は日本で教育を受けた北京出身の中国人です。日本語による指示は曖昧になりがちだと思います。特に「指示の強さ」が中国人に伝わりにくい例をよく見かけます。例えば、講義で紹介された次の例文に、私は強く共感しました。

「ファイルを削除しないようにしてください」


講義では、指示や伝達はできるだけ「肯定文」に統一するようおっしゃっていました。中国人に対しては、さらに漢字を多用するとより効果的です。

「ファイル削除禁止」


さらに、次の2つの例文をご覧ください。

a.必ずファイルを削除してください
b.絶対にファイルを削除してください


日本人にとって、上記2つの文章はどちらも同じくらい強い指示だと思います。ですが、日本語能力 N3-N2 の中国人にとって、この2つの強さは異なる恐れがあります。


■ 問いかけ

<問1>日本向けオフショア開発で活躍する中国人技術者にとって、下記2つの指示はどちらがより強い印象を与えるでしょうか? 日本語能力は N3-N2 だと仮定します。

a.必ずファイルを削除してください
b.絶対にファイルを削除してください

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もしおかしなところがあればご指摘ください、と仕様提示

ある日、組込系オフショア開発の発注元で働く中堅日本人技術者のもとに、海外の委託先から以下のメールが届きました。

仕様変更されたプログラムを更新しました。あまり自信がないのでチェックをお願いします。

なお、当該プロジェクトでは、基本設計は日本側で、詳細設計から結合テストまでは海外オフショア側が担当する役割分担です。ちなみに、上記の日本人技術者は設計とベンダー窓口を兼任しています。


このメールを受信した中堅技術者は「オフショア先は自分の手がけた仕事の品質を発注者に尻拭いさせるつもりか」と憤慨しました。独り言のように海外の悪口を撒き散らす中堅技術者に対して、先輩格のプロジェクトリーダーが声をかけてきました。


先輩:今回は仕様変更が多発しているようですが、顧客はどうおっしゃっているのですか?

中堅:肝心のハードウェア仕様が固まらないので、後工程のソフトウェア開発にしわ寄せ来ているそうです。そのため五月雨式に仕様が届きます、とのことでした。ただし、もともとラボ契約なので、工数増加についての話は一切ありません。

先輩:なるほど。顧客は「仕様変更多発」の意識が薄いようですね。

中堅:仕様変更ではなく、仕様提示の遅れ、という認識でしょう。

先輩:では、多発する仕様変更をオフショア委託先にはどう伝えましたか?

中堅:十分に検討され尽くしたわけではないので、もしおかしなところがあればご指摘ください、と注釈をつけて仕様変更を提示しました。

■ 問いかけ

<問1>海外オフショア側から届いたメールは、無責任だと思いますか?(Y/N)

仕様変更されたプログラムを更新しました。あまり自信がないのでチェックをお願いします。

<問2>中堅技術者がオフショア委託先に仕様変更を伝える態度は無責任だと思いますか?(Y/N)

十分に検討され尽くしたわけではないので、もしおかしなところがあればご指摘ください

<問3>あなたは、このプロジェクトを外部から観察する第三者だとします。オフショア委託先との窓口役で苦労する中堅技術者に対して、どうアドバイスしますか。

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度重なる仕様変更:名前を入力できません

2016年 5月現在、ベトナムオフショア開発の人気は相変わらず続いています。今日は、オフショア大學サブテキストからベトナムオフショア開発でいかにもありそうな事例を紹介します。


【状況】

・ベトナムへのオフショア開発
・ラボ契約
・自社運営するWeb サービスの開発保守を委託
・SIの請負開発とは違い仕様変更は日常茶飯事
・ラボ契約なので仕様変更には柔軟に対応してもらえる雰囲気
・ブリッジ役として日本人技術者の當間さんが客先常駐している


【事例:名前を入力できません】

日本とベトナムをつなぐ當間さんは、ある会員向けサービスのシステム開発で会員登録機能の実装を担当しました。

その中で伝説化したのが名前の入力です。

仕様書には「すべて全角であること。名前に使われない文字が含まれていればエラーとする」と書かれていました。そこで「名前に使われる文字とは何ですか?」と依頼主に確認したところ、「漢字・ひらがな・カタカナとスペースです」との回答。

そこで當間さんは文字コードの範囲チェックによるエラー処理を組み込みました。

問題はその後の迷走です。名前を入力できない (エラーチェックに引っかかる等) というクレームと修正とのいたちごっこが始まったのです。

・「佐々木」が入力できない→「々」は記号の文字コード範囲にあるのを見落としていた

・「シズヱ」が入力できない→旧仮名が考慮から漏れていた


ここまでは當間さんも自分のミスだと納得して対応していました。

・「いすゞ」が入力できないので「ゞ」を追加

・「H・ポッター」が入力できないので外国人の会員向けに英字と中点と長音を追加


この時点で當間さんから、全角であればすべてOKとしませんかと持ちかけてみたものの、「算用数字とか科学記号とか変な外字とかを入れられても困るから、チェックはしてください」と取り合ってもらえませんでした。

・長音の代わりにハイフンやマイナス、横雪線を入力する人もいるのでこれらを追加

・法人会員だと名前欄に会社名を入れることもあるので「株」「有)」を追加

・ペンネーム「つのだ☆ひろ」が入力できないので「☆」を追加

・アイドルグループ名「AKB46」が入力できないので、やっばり算用数字を追加


ついに業を煮やした當間さん、「このままではきりがありません。名前に使われる文字を明確に定義してください」と詰め寄ります。

依頼主の返答はこうでした。

『ご質問の「名前に使われる文字」ですが、ユーザーが名前として入力した文字全般ということになります。今後とも対応の程よろしくお願いします』

出所:内山・幸地(2010)、SEの「品質」力、技術評論社


■ 問いかけ

<問1>自社サービスを開発・運用する際、仕様変更は日常茶飯事です。ラボ契約はこうした不確定要素を吸収するために編み出された有効な対策の1つです。よって、上記事例に登場する當間さんは、度重なる仕様変更にも柔軟に対応すべきです。あなたはこの意見に同意しますか?(Y/N)

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念のため再確認したらベトナム人のプライドを逆なで

前号に引き続き、5月大型連休中に公開されたベトナム関連コラムから興味深い箇所を抜粋します(本誌発行人による加筆修正あり)。

よく目につくベトナム人IT技術者のマイナス特徴:

・全体的に、ディレクション能力が低い
・指示待ちになる傾向
・イノベーティブな発想や行動は起こりづらい


その一方で、プラス特徴:

・1つのことを教え込んだら的確に実行する人は多い


ベトナム人に指示・伝達する際には、性善説より性悪説で厳しく臨んだ方が長期的にお互いのためにもなる。

日本側の伝えたことをベトナム人が理解しているか気に掛かり、「いま私が言ったことを繰り返してみてください」と伝えたところ、「どうしてそんなことを聞くのか」と機嫌を損ねさせてしまったことがある。業務上確認したいだけなのにベトナム人のプライドを逆なでしてしまい、どうしたものかと頭を抱えた。

出所:ベトナムIT業界に起こる「オフショア疲れ」--対応を迫られる日本企業、CNET Japan (2016/05/04)

■ 問いかけ

<問1>ベトナムオフショア開発の現場で活躍するある日本人が、次のような発言をしました。

「ベトナム人がいつまでも下請開発に甘んじるわけがない」
「ベトナム人はディレクション能力が低く、指示待ち傾向」

この二つの発言は矛盾するように感じられます。前者はベトナム人の主体性に期待する一方で、後者は2016年になっても相変わらず単純労働しかできないベトナム人の問題点を指摘しています。

実は、オフショア開発の現場で、このような矛盾する発言は珍しくありません。なぜ、このような矛盾があちこちで生じるのでしょうか?

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