勝手にやり方を変える中国人

オフショア大學でも講師を務める「中国工場の品質改善」の根本隆吉氏の著書から引用します。

日系中国工場では、機械のオペレーションや工法などを必死に中国人に教えます。最初は中国人も素直に聞きますし、教えに従ってやります。ところが、ちょっと覚えて、機械操作や工法に慣れてくると、「自分はすべて理解した」と勘違いします。自分の凄さを見せようとしてやり方を変えてしまうこともあります。

出典:根本隆吉(2015)、こうすれば失敗しない!中国工場の品質改善<虎の巻>、日刊工業新聞社

オフショア開発では「勝手に○○」というセリフをよく耳にします。実はオフショア開発に限らず、製造業でも同様な不満が漏れ伝えられます。

当ブログでも過去に「勝手に」に関する事例をいつくか紹介しました。


勝手に知らない外部ソフトが組み込まれていたら
中国から納品されたソースコードを眺めていたら発注者への相談もないまま勝手にオープンソースの無料ソフトが使われているようです。どう対処すべきでしょうか?


自分勝手なブリッジSE
仕様に関する重要なQ&A ですが、ブリッジSEと中国人プログラマが中国語で話しているので、私には全く理解できません。さらに悪いことに、このブリッジSEは直属の上司ともコミュニケーションを図らず、勝手に顧客と直接交渉していました・・・


理解できない箇所は翻訳せずにすっ飛ばす通訳
ブリッジSEが日本人の意思を直訳しない。自分が理解できる範囲で意訳する。理解できない箇所は、翻訳せずにすっ飛ばす。大学で日本語を専門的に学んだIT音痴の通訳はソフトウエア開発を知らなさ過ぎで、会話が成立しない。


■ 問いかけ

<問1>参考文献の72ページで紹介される中国工場管理の大原則を3つまとめた「中国工場のABC」。ABCは、それぞれ管理原則の頭文字に相当します。3つとも日本語です。ABCを予想しなさい。


<問2>工場の生産ラインとは異なり、オフショア開発プロジェクトで現場が「勝手」に何かを変更しても、必ずしも弊害が発生するとは限りません。むしろ、現場の創意工夫を褒める方が長期的に得策です。この意見に同意しますか?(Y/N)


<問3>仕事に慣れてくると「勝手にやり方を変える」のは中国人の特徴です。この意見に同意しますか?(Y/N)


※問いかけのヒントは オフショア大學 facebook ページ上で議論しています。

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中国駐在員の成功と失敗

オフショア大學でも講師を務める「中国工場の品質改善」でお馴染みの根本隆吉氏が、このたびノウハウをまとめて初出版しました。

タイトル
こうすれば失敗しない!中国工場の品質改善<虎の巻>

オフショア大學メールマガジン 2015/05/29(1,501号)で目次概要を紹介済みです。今日は、この本から気になる箇所を一部抜粋して紹介します。

●中国工場で日本人育成の是非(p37 一部加筆修正あり)

ある中国の日系取引先で、日本人駐在員が1年で帰任したことがありました。本社と工場とで、駐在員に対するスタンスが異なることが原因だったようです。

工場側は即戦力となる駐在員を求めていたのに、本社側はその意向を理解していませんでした。本社側は、駐在員を中国に送った後、工場で勉強して力をつければ良いと考えていました。

ですから、本社から送り込まれた駐在員に即戦力としての力はなく、さらに、当時の工場には駐在員を育成するだけの余裕もなかったことから、結局は総経理の判断で日本に戻されることになりました。

・・・(略)

日本では平社員でも中国工場に行けば課長相当の管理職につくケースも少なくありません。現地では、大勢の部下を持つことになるからです。駐在員に即戦力を期待するなら、管理者としての役割も事前研修で身につけさせたほうがいいでしょう。


出典:根本隆吉(2015)、こうすれば失敗しない!中国工場の品質改善<虎の巻>、日刊工業新聞社


■ 問いかけ

<問1>中国駐在員の成功率(失敗率)を予想しなさい。


<問2>中国駐在員が失敗する典型的な理由を求めなさい。


<問3>ある日系工場では、本社から日本人を海外赴任させる際の辞令には「○○工場赴任」とだけ記載されるのが習わしです。総経理や役員を除けば、辞令には役職や職務範囲も未記載です。このような辞令をもらった日本人駐在員は、現地でうまく活躍すると思いますか?(Y/N)


<問4>中国駐在員が成功するにはどうすればいいですか?


※1 問いかけのヒントは、オフショア大學 facebook ページで発表します。

※2 オフショア大學では、製造業で培われた豊富な知見をオフショア開発に役立てるノウハウを学べます。来週の管理者・PMO 向け講座にご期待ください。

講座名:グローバルチームの持続的改善と中国プラスワン戦略への対応

一日目:2015年7月28日(火)10:00-17:30
二日目:2015年7月29日(水)09:30-12:30

・ベトナム、インド、ミャンマーなどの最新動向を幅広く知りたい
・「事業推進」の観点からノウハウを知りたい
・外国人上司や外国人顧客の指揮下で動く機会がある
・中国プラスワン戦略の意思決定に役立てる
・グローバル人材育成カリキュラムの知識やノウハウが得られる

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アジア4カ国の上司像と働き方に関する調査

アジアで1,200名(各国300名)を対象とした上司のマネジメントの特徴に関する意識調査「アジア4カ国の上司像と働き方に関する調査 2012」[1] より。

調査対象国:中国、インド、日本、シンガポール


まず、4カ国で共通する価値観を示した調査結果を1つ紹介します。

理想の上司像について各国で調査したところ「判断力が優れていること」は4カ国共通で上位にランクインしました。特に、日本では第2位以下を引き離してダントツ一位を獲得しました。

他国とは違い「ボトムアップ型」や「村社会と長老」を特徴とする日本企業において、判断力が優れていることが圧倒的に支持される調査結果がとても興味深いと思います。


調査全体(報告書 88ページ)を俯瞰すると、すぐに以下のことに気づきます。


・「中国、インド、シンガポール」 vs 「日本」の構造
すなわち、4カ国中、日本だけが特殊な結果を示す傾向がある。


・この種の調査結果を鵜呑みにすると危険
例えば、中国人は通常、アンケートに馬鹿正直に答えない


・実務に応用するには、異文化理解に基づくが慎重なアレンジ必要
当該調査からは各国それなりに特徴ある結果が得られるが、データ分析を実務応用する際には文化的背景を考慮すること。


以上を注意すれば、この調査結果は読み物としても面白いし、あらゆる業種業態で現状改善に役立つヒントが得られます。


■ 問いかけ

<問1>職場での行動特徴について調査しました。会議への遅刻を最も許容する割合が高いのは、どの国でしょうか?

(a) 中国
(b) インド
(c) 日本


<問2>キャリアにおいて重視する価値観を質問しました。働く上で「専門知識・技能を磨いていくこと」を重視する割合が最も高いのは、どの国でしょうか?

(a) 中国
(b) インド
(c) 日本


<問3>働く目的として「お金を得る」ことを重視する割合が最も高いのは、どの国でしょうか?

(a) 中国
(b) インド
(c) 日本


<問4>管理職にとって大切なことを質問しました。判断や行動に一貫性があることを重視する割合が最も「低い」のは、どの国でしょうか。

(a) 中国
(b) インド
(c) 日本


参考文献
[1] リクルートマネジメントソリューションズ(2012)、アジア4カ国の上司像と働き方に関する調査 2012

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書籍「中国人の財布を開かせる31の方法」より雑学クイズ

最近読んだ中国ビジネス本から得られた雑学をいくつか紹介します。オフショア開発とは無関係なので、興味ない方はいきなり最後の「問いかけ」に挑戦してください。


●初級編

・中国の親は子のためならいくらでも金を使う

我が子をよい学校に通わせるためなら、わざわざその学校の近くに家を買い、ローンを返すために体に鞭打って馬車馬のように働くのも厭わない。


●中級編

・電話営業はすればするほど喜ばれる

一般の中国人消費者は、自分が特別扱いされていると感じられるなら、電話営業やDM(ダイレクトメール)に対して拒否的な反応を示すことは少ない。ただし、高級感あるメッセージにのみ好意的に反応する。

・相手の面子を重んじるので電話営業にも耳を傾ける
・平日昼間の勤務中でも構わず個人携帯に電話営業するのが中国流


●上級編

・よくわからないものについてはクレームをつけない

ある輸入ワイン専門販売サイトでは、中国ではありえない低クレーム率、低返品率を誇る。理由は本をご覧ください。


・文化的にタブーな宣伝文句

ある日本企業が、今話題の医療ツーリズム企画し、次の宣伝文句を入れたDMを作成したところ、中国人ネイティブチェックで即座に問題指摘された。

「ご両親に長生きしてもらうために、日本の先進医療を受けにきませんか?」


・法律的にタブーな宣伝文句

不動産などの案内で「駅から徒歩○分」は厳禁。理由は本をご覧ください。


出所:近藤恵理子(2012)、中国人の財布を開かせる31の方法


■ 問いかけ

<問1>初級知識「中国の親は子のためならいくらでも金を使う」を用いて、中国人マネージャー(既婚・子持ち)の採用面接に役立つチェック項目をいくつか考案しなさい。


<問2>初級知識「中国の親は子のためならいくらでも金を使う」を用いて、中国人リーダー候補(独身・マンション未購入)の採用面接に役立つチェック項目をいくつか考案しなさい。


<問3>中級知識「電話営業はすればするほど喜ばれる」が成立する条件を重要順に全て書き出しなさい。


<問4>上級知識で紹介した以下の事例を読んで、後の設問に答えなさい。

ある日本企業が、今話題の医療ツーリズム企画し、次の宣伝文句を入れたDMを作成したところ、中国人ネイティブチェックで即座に問題指摘された。

「ご両親に長生きしてもらうために、日本の先進医療を受けにきませんか?」

一体なぜでしょうか。理由を具体的に述べなさい。


<問5>上級知識に相当する以下の事例を読んで、後の設問に答えなさい。

ある年の春にDM(ダイレクトメール)を作ったのですが、早春の雰囲気を出したいと考え、気を利かせて梅の絵柄を入れたデザインにしました。すると、それを見たクライアントが激怒した。

一体なぜでしょうか。理由を具体的に述べなさい。

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オノマトペを外国語訳する一工夫

大和言葉の一部は、外国語に直訳できません。日本語のオノマトペは、そのほとんどが外国語に直訳できないでしょう。直接原因は言葉の壁ですが、根本原因は明らかに「文化の違い」です。

さらに、大和言葉ではないものの、日本独自の慣用表現も外国語に直訳できません。例えば、「下心がある」や「腹案がある」など。

オフショア大學では、オノマトペや日本的な慣用表現を「正しい日本語」だと認めた上で、外国語に翻訳しやすい別の日本語表現に書き換える訓練方法を提唱します。

この作業を「中間日本語に書き換える」と表現します。


・さっとすませる → 手早く、粒度を荒く、でも網羅的に
・すむ → 修正されたモジュールを単体試験対象に追加する
・下心 → ◯◯◯な意図


このように、いかにも日本的な表現を中間日本語に書き換えるには、行間に隠れた背景=前提条件を的確に言葉で書き表さないといけません。

例えば、前出のオノマトペ「さっと」には、3つの隠された背景があります。もし、作業指示で「さっと」が用いられたら、3つの評価基準が隠されている、と頭の中で即時変換するとよいでしょう。

1)速度
2)粒度
3)網羅性


この3つの評価基準は、状況によって全く異なります。通常、上長から「さっと」と言われたら、(1)対応速度を優先しがちです。ところが、対応箇所に偏りがあると(3)網羅性が犠牲になり、下記事例のように作業指示を満たさない恐れがあります。


●「さっと」が通じない会話例

上司「会議前に机をさっと拭いておいてください」
部下「はーい」

・・・さっとひと拭き

上司「コラ!残った水滴で配布資料が濡れてしまったぞ!」
部下「私は、言われたとおり、さっと拭きました」

上司「机にアイスコーヒーの水滴が残っているから、それを拭いて資料が濡れないようにする。そんなことも気づかないのか!」
部下「すいません」

なお、今日の内容は下記文献をヒントに構成しました。

荒木博之(1994)、日本語が見えると英語も見える、中公新書

■ 問いかけ

<問1>大和言葉「すむ」に対応する漢字を複数挙げなさい。
<問2>大和言葉「すむ」のコアイメージを調べなさい。
<問3>「みる」「とる」「やる」のコアイメージを調べなさい。
<問4>日本的慣用表現「下心」を中間日本語に書き換えて、さらに英訳しなさい。

以下は、大和言葉やオノマトペを語る意義(うんちく)です。興味ないは、読み飛ばしてもらって構いません。


オフショア開発で使われる日本語の会話や文章は、外国人技術者に伝わりにくくて、いつも苦労します。

その原因は以下のように分類されます。

1.そもそも日本語として不適切だから
2.日本語としては適切だが、外国語に翻訳しにくい


2.は更に細かく分類されます。

2-1.言い回しや文章全体が高コンテクストだから
2-2.単語や短い文節レベルで、既に外国語に翻訳しにくいから


2-2.を更に細かく分解します。

2-2-1.業界用語、専門用語、社内や内輪で使う略語
2-2-2.カタカナ外来語の乱用
2-2-3.日本独特の概念を表す言葉


2-2-3.を最後まで分解すると、こうなります。

2-2-3-1.オノマトペ
2-2-3-2.オノマトペ以外の大和言葉
2-2-3-3.それ以外の日本独自の慣用表現

※それなりに知恵を絞って分解したつもりですが、言語学的見地から不適切だ/間違い、などの指摘があるかもしれません。


さて、ここで言葉を定義します。

大和言葉とは、古くから日本列島で用いられる日本固有の言葉です。要するに漢語と外来語をを除いた大半の言葉です。2-2-3.では、外国人には理解しにくい日本独特の概念を表す大和言葉に着目します。

オノマトペとは、擬音語と擬態語を総称するフランス語由来の外来語です。日本語では擬声語(ぎせいご)と言いますが、本誌では語学教育でお馴染みの「オノマトペ」の方を使います。


オフショア開発未経験者が、外国人技術者とのコミュニケーションで生じる「言葉の壁」や「文化の違い」を手っ取り早く体験するには、平仮名で表記される大和言葉と漢字の対応関係を考察するとよいでしょう。


例えば、大和言葉の「とる」「みる」を考察。

・「とる」に相当する漢字は? → 取/摂/採/捕/執/撮
・「みる」に相当する漢字は? → 見/観/診/視/看


このように、一つの大和言葉に複数の漢字が対応します。一体なぜでしょうか。

実は、大和言葉「とる」や「みる」には、それぞれ漢語で表現できる微妙な違いを包含する1つの意味がある、と考えられるからです。

オフショア大學では、「とる」「みる」が持つ言葉の根源的意味をコアイメージと呼んでます。コアイメージは、大和言葉だけではなく全ての言葉に備わっています。日本語だけではなく、英語や中国語にもコアイメージは存在します。


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・外国人技術者に向けた文書作成とQ&A連絡の技法
・オフショア開発でよくある失敗事例とその対策
・英語に翻訳しやすく外国人に伝わりやすい日本語


過去、受験英語に真面目に取り組んだ人は、日本と英語で一対一対応しない単語をいくつか知っているでしょう。これまでにも、オフショア開発で使われる以下の事例を紹介しました。

・管理
・責任
・評価


同様に、日本語と中国語で意味が一対一対応しない同形異義語についても、たくさん紹介しました。

・愛人
・大丈夫
・曖昧
・問題

参考:現場で最も誤解を生みやすい同形異義語

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標準プロセスが遵守されない理由

昨日の続きで、最近読んだ本を紹介します。

参考:グローバル社会への適応方法は1000年前に中国で発明済み

欧州の産業革命から始まり現在は米国が主導するグローバル社会の仕組みは、1000年も前に中国宋朝で発明された基本設計の焼き増しに過ぎません。

では、なぜ、今の中国では、法律が守られず、個人の財産権も保証されず、欧米流の民主的な議会政治が機能しないのでしょうか?

この問いかけには「民主主義は素晴らしい」「中国は悪の枢軸」みたいな前提条件が隠されています。前日も紹介した書籍「中国化する日本」によると、上記の問いかけの答えは以下の通りです。


●なぜ、中国では法律が守らないのか?

「なぜ、欧州では法律が守られるような土壌が育まれたのか?」を先に考える。

→答:欧州には中世後も永らく身分制度が残されていた。そのため、既得権益を握った貴族連中が王様(皇帝)から我が身を守るために公正な裁判制度を維持する必要があったから。同様な理由から、財産権も保護されるようになった、と考えるのが自然。

一方、中国では1000年前も宋朝時代に身分制・世襲制が撤廃され自由競争社会に突入したため、貴族が皇帝から財産を守るための裁判制度を発達させる牽引力が生まれなかった。

参考:中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史

●中国には身分制・世襲制がありませんが、国民の間に大きな経済格差が存在します。一方、日本には最近まで身分制・世襲制が残っていますが、国民の経済格差は世界的には極めて小さいとされます(参考:ジニ係数)。

日本と中国は同じような儒教文化を共有しながら、社会構造はまるで違います。

当然ながら、中国オフショア開発でもその影響をモロに受けます。

・平等意識
-買い手と売り手は対等関係(中国)
-男女平等(中国)
-職場と家庭は平等/むしろ家庭が重要(中国)


・格差
-数年前に結婚した幹部社員と未婚の若手社員との経済格差は凄まじい。同じような学歴を持ち、同じ会社で、同じプロジェクトで、同じ技術分野を扱うのに、生涯追いつくことの出来ない格差あり。
-日本で管理職になるには平均で勤続20年、中国で管理者になるには勤続5年、という管理職としての経験の格差


ちなみに、日本と中国、それぞれに「差別意識」は根強く残っています。公然の事実ですね。

・差別意識
-上流工程は偉い、下流工程は嫌い(日中共通)
-管理者は偉い、現場で汗水垂らして働くのは嫌い(中国)


最後に「ルール遵守に対する意識」について。日本と中国は、どちらも超法規的な暫定処置が少なくありませんが、その背後の意思決定メカニズムは全く異なります。

・ルール遵守に対する意識
-公式ルールよりもボスの意向が優先(中国)
-ボス不在なら、公式ルールよりも自分を優先(中国)
-公式ルールよりも、空気を優先(日本)
-目的が正しければ、公式ルールを破ってもよい(日本)
-前提条件が変われば、公式ルールに従う必要はない(中国)

■ 問いかけ

<問1>なぜ、中国では欧米流の民主的な議会政治が機能しないのか? 書籍「中国化する日本」の考え方を用いて説明しなさい。

ヒント:なぜ、欧州では民主主義な議会政治が必要とされたのか?


<問2>なぜ、多くのソフトウェア開発現場では標準プロセスが遵守されないのでしょうか? 日本と中国、それぞれの事情を考慮して理由を分析しなさい。

例:忙しいとき、勝手にレビュー省略する中国
例:顧客都合により手続きを無視して仕様変更をゴリ押しする日本

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グローバル化への適応方法は1000年前に中国で発明済み

息抜きに最近読んだ本の紹介。

中国の歴史は、唐(中世)と宋(近世)の間で切れます。現在のグローバル社会の仕組みは、実は1000年前の中国(宋朝)で基本設計されました。

唐(中世):地域ごとに分断された貴族による世襲政治
宋(近世):皇帝による統一的独裁、科挙(身分制・世襲制撤廃)

日本社会は当時の世界最強国「唐」から多くを学びましたが、宋の基本設計は日本の風土にあわなかったのか大事なところを真似しそこねました。

キーワードは「科挙」、最大のポイントは「なぜ古代日本は、当時世界最先端だった宋朝の人材抜擢システム=科挙を導入しなかったのか?」との問いかけです。

唐(中世):身分固定、機会平等はなし。地方軍閥による分裂状態。

宋(近世):科挙により機会の平等が保証。政治は超トップダウン。政治以外の領域は自由競争。政府によるセーフティーネットはなし。


繰り返しになりますが、欧州の産業革命から始まり現在は米国が主導するグローバル社会の仕組みは、1000年も前に中国宋朝で発明された基本設計の焼き増しに過ぎません。


中国宋朝流の社会をあえて一文で要約すれば以下の通りです。

 可能な限り固定化された集団を作らず、
 資本や人員の流動性を最大限に高める一方で、
 普遍主義的な理念の則った政治の道徳化と、
 行政権力の一元化によって、
 システムの暴走をコントロールしようとする社会。


現在の日本の社会の仕組みを知りたければ、1600年代以降に完成した江戸時代の基本設計を分析するとよいでしょう。それは、中国宋朝流の社会とはまるで正反対の特徴を有します。

もしあなたが、現代の中国社会を知りたければ、日本の明治時代を研究すると良いでしょう。逆にいえば、日本の明治時代の社会構造を理解すれば、現代中国の社会状況が手に取るように分かります。

ただし、これは「中国は日本より100年遅れている」という意味ではありません。前述したように、むしろ「中国は1000年も前にグローバル化に適合した社会構造を作り上げた。日本よりずっと進んでいる」と考えるほうが自然です。

参考:中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史

この本を参考に、伝統的な日本企業の組織運営の仕組みを考えます。

特徴1 職位(権威)と権力の分離

・役職者は現場で権力を行使しない日本企業の上位マネジメント
・日本の現場力を生み出す源泉にもなれば、
・日本のリーダーシップの弱さを象徴する特徴でもあります。
・例:あそこの部長は名前だけで、実際にはすべて現場の課長が仕切ってる


特徴2 トップマネジメントと道徳の弁別

・日本企業の道徳と言えば「現場一筋の古参社員」みたいなイメージがあるが、彼らは決して会社のトップエリートではない。会社トップが崇高に理念を掲げたところで、現場はむしろ白けちゃう。
・トップマネジメントの最大の仕事は派閥間調整であり、会社の外に訴えかけるような「道徳/理念」の出番はない。
・例:故スティーブ・ジョブズは日本企業のトップにはなれない。


特徴3 知識や能力があっても、権力や富が得られるとは限らない

・終身雇用や年功序列に代表される日本的人事の代表的特徴
・特徴3がなければ、中途採用者が活躍する余地が大きい


特徴4 OJTによる人材育成と現場主義

・「先輩の背中を見て育つ」に代表されるHigh Contextな秩序
・機会の平等より結果の平等を優先して組織末端までケアする「やさしさ」


特徴5 ムラ社会的な序列、空気を読め的な集団主義

・「遠くの親戚より近くの他人」を信条とする人間関係
・会社への高い忠誠心


■ 問いかけ

<問1>以下は、宋朝以降の中国社会の五大特徴です。中国オフショア組織運営の観点から補足説明しなさい。

特徴A 権威と権力の一致
特徴B 政治と道徳の一体化
特徴C 政治的に偉い人は頭もよく人間的にも立派、という建前論
特徴D 市場ベースの秩序と流動化
特徴E 宗族に代表される広く浅い個人的な人脈構築

参考:中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史

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SEの「品質」力

SEの「品質」力

内容紹介
本書は、SEの方々に、品質管理への入り口をくぐっていただくことを念頭に置いています。第1章では品質管理の難しさと重要さにまつわる話題を取り上げています。第2章では初級SEにありがちな誤解を解き、その代わりに持つべき考え方を示します。第3章は開発現場で使える、実践テクニックとしての問題解決ツールについて説明しています。第4章はチームマネジメントの観点から、品質問題を致命的なレベルまで悪化させてしまう落とし穴をあげます。第5章はまとめとして品質管理の要点を述べます。

単行本(ソフトカバー): 224ページ
出版社: 技術評論社 (2010/3/4)
言語 日本語
ISBN-10: 4774141879
ISBN-13: 978-4774141879
発売日: 2010/3/4

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その日本語が毒になる!

先日たまたま古本屋で手に取った一冊を引用しつつ、日本語コミュニケーションの面白さを論じます。

吉村達也(2008)、その日本語が毒になる!、PHP研究所

間接的に表現したら、もっと心証が悪くなった

 納品後にバグが発覚するなんて、貴社は無責任だ。
 納品後にバグが発覚するなんて、いかがなものか。

 作業遅延は明らかなのに春節に休むのは、まずいと思う。
 作業遅延は明らかなのに春節に休むのは、いかがなものか。

直接的な非難を避けさえすれば、それだけで相手の心証を悪くしないと思い込んでいる人は、「いかがなものか」という発言によって、かえって自分が感じの悪い人間になっていることになかなか気づかない。(p52)

→自分自身を振り返ると、私も職場で「~でしたっけ?」などと曖昧かつ間接的な表現を使います。さすがに外国人を相手に「いかがなものか」を使った記憶はありませんが(幸地)。

日本語は文法的な精密さに欠ける

 ドライブが好きだという話を英語でしているとき、
 “my car”という単語を使ったら、ネイティブの教師から
 「あなたは結婚しているんでしょう。だったら、たとえ
 自分しかハンドルを握らない車でも“my car”ではなく
 “our car”と言わなければなりません」と注意された。

「私の車」ではなく「私たち夫婦の車」だというわけだ。(p94)

→私の異文化コミュニケーション講座でよく使うネタの1つに、「ウチ」と「ソト」そして「ヨソ様」の使い分けがあります。「ウチ」の適用範囲は、相手との関係性によって変化します。ウチの会社/ウチのヒト/ウチの車/ウチでは違います/・・・

「反省」と「謝罪」の区別がつかない

「申し訳ございません」には基本的な欠陥がある。「申し訳ございません」は、言葉で謝るよりも、まず土下座をしろ、という謝罪の中身より形式重視の思想から生まれた言葉だ。「申し訳」=「言葉による釈明」は何も「ございません」というわけだ。(p118)

→余談ですが、中国企業では「反省会」という言葉そのものが嫌われます。改善活動が大好きな日本人はご注意を。

日本語の謝罪の言葉は不便

「おわび申し上げます」は、日本人感覚からすればちょっとクールすぎる。「ごめん」「すいません」もくだけすぎ。日本語には、意外にも、公式の場で通用するお詫びの言葉がない。(p120)

→今でも日本企業の一部では「男は黙って・・・」の浪花節が好ま れます。ところで先日、中国人SEから「浪花節」って何ですか? と質問されて、一瞬まごついたわたし(幸地)。

日本語で役立つ、公式の挨拶言葉は「おはようございます」のみ

朝、平社員がトイレで用足し中、隣に専務が立つ。そこで二人並んで前を向きながら、平社員はやや緊張しながらも「おはようございます」と挨拶する。専務は「おう」と前を向いたまま応じる。ところが、同じ状況が昼だったら、平社員は専務に何と挨拶するか?(p122)

→後述する<問1>を参照。

日本語の感謝の表現はとても言いにくい

関西弁なら「おおきに」、英語なら「サンキュー」で軽く済ませる局面でも、日本語の「ありがとう」「ありがとうございます」だと違和感を覚えてしまう。日本の標準語は、構造上の欠陥から自然なコミュニケーションをやりづらくしている。

→私が中国で服務員のサービスに「謝謝」と言うと、必ず「どういたしまして」という意味の中国語が返ってきます。日本人の私にとって、この対応はかなり嬉しい。この感覚、分かりますか?

参考:吉村達也(2008)、その日本語が毒になる!、PHP研究所 (★★★☆☆:幸地評価)
長年の作家活動から洞察した日本語の弱点を鋭く指摘、コミュニケーション論として新境地を拓く。本書から引用した一部を読みやすくするために修正しました。

■ 問いかけ

<問1>
朝、平社員がトイレで用足し中、隣に専務が立つ。そこで二人並んで前を向きながら、平社員はやや緊張しながらも「おはようございます」と挨拶する。専務は「おう」と前を向いたまま応じる。ところが、同じ状況が昼だったら、平社員は専務に何と挨拶するか?

次の選択肢から1つ選びなさい。答えを選んだ理由も述べなさい。

a)「こんにちは」
b)「お疲れ様です」
c)「どうも」
d) 黙って挨拶しない

<問2>
以下の空欄[ ]を適当な文章で埋めなさい。(参考:p107)

商品にクレームがあって店を訪れた客が「責任者を出せ」と要求
するとき、[        ]に主眼がおかれている。

<問3>
平均的な日本人が下記の二重否定を使う理由を述べなさい。(参考:p52)

・あなたの意見に反対でないといえばウソになる。(二重否定)
 cf.あなたの意見には反対だ。

・私の責任ではないといえばウソになる。(二重否定)
 cf.私の責任だ。

<問4>
その日本語が毒になる!」の著者吉村氏は、日本語の標準語には、いくつかの欠陥があると主張します。例えば、英語の冠詞と比較して、日本語の文法は精密さに欠けると論じます。あなたは、この意見に賛成ですか。それとも反対ですか。答えの根拠を述べなさい。


ps.
低コンテクストかつ論理的なコミュニケーションの大切さを主張する本書ですが、なんだか非論理的な主張が目立ち、不思議な世界観が展開されています。
というわけで、面白さ重視なら四つ星。学習重視なら二つ星。
本書タイトルは、恐らく出版社が名付けたと思います。というわけで、著者の意図は日本語コミュニケーションのTips整備にあると勝手に判断しました。Tips集だと割り切れば、私はこの本を十分に楽めます。(幸地評価)

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悪い報告の三大悪(隠蔽/嘘/言い訳)

先日から、日本語能力検定試験3級程度の外国人ブリッジSEを対象した研修カリキュラムを検討しています。プログラマとして独り立ちしたものの、プロジェクト管理の経験に乏しい「PG以上/PM未満/SE修行中」のソフトウェア技術者が対象です。

ブリッジSE育成研修の内容は、3分野に大別されます。

1)日本語研修
2)ソフトウェア技術研修
3)ブリッジSE研修

これまで、オフショア大學では主に領域3に特化した研修トレーニングを提供してきました。ところが、「早い安い使える」を合い言葉にしたブリッジSEの垂直立ち上げ教育への要求が日々高まっている現状を踏まえて、オフショア大學でもブリッジSE育成を全方位で網羅することになりました。

そこで、普段オフショア大學がお世話になる日本語学校の校長先生とも相談しながら、外国人ブリッジSE垂直立ち上げに必要な日本語研修の課程を企画しています。

オフショア大學が考える初中級用ビジネス日本語研修は、以下の流れに沿って進められます。一般的な日本語学校の教育とほぼ同じです。

・自己紹介
・あいさつ
・許可/依頼/誘い
・電話/メール
・提案/申し出/アポイント
・ほうれんそう
・会議/意思決定
(最大2週間の短期集中トレーニング)

出典:米田隆介ら (2006)、ビジネスのための日本語 初中級、スリーエーネットワーク を参考にオフショア大學が整理

オフショア大學の日本語研修は、3つの分野で構成されます。

a) ビジネス日本語(基礎編)
b) 日本ビジネスマナー(一般/ソフトウェア業界)
c) 専門用語(ソフトウェア業界/ブリッジSE業務)

数年間、日本で働く覚悟を持つ外国人ブリッジSE候補者に対しては、それなりに厳しいスパルタ教育を施します。ところが、仕様検討や業務切り出しで通常2週間、長くても3ヶ月間の日本出張予定者に対しては、費用対効果に優れた短期集中型の日本語教育が求められます。

オフショア大學では、後者を意識した研修プログラム(OJT+OffJT)を構築しています。ちなみに、今月開催のオフショア開発コーディネータ養成講座では、人材育成を企画する担当者が知っておくべき理論と実践法を学習します。

■ 問いかけ

<問1>以下の慣用句を英語に翻訳して、適切な使い方を指南しなさい。

「ちょっとよろしいでしょうか」
「よろしくお願いします」
「いつもお世話になっております」
「~っけ?」(例:どうなっていましたっけ?)
「さっとやってもらえるかな」
「これは、ざっくりでいいから」
「それは先にやること」
「すみません」
「どうも」
「ほうれんそう」
「社会人の自覚を持つように」
「責任を持って自発的に行動しましょう」

<問2>あなたは、PG以上/PM未満/SE修行中のブリッジSE候補者に、「悪いことも必ず報告する」という社会人としてのビジネス常識を教育します。どうすれば、いいでしょうか。

ホウレンソウを怠ったら人事査定で厳しくマイナス評価する
隠蔽/嘘/言い訳の三大悪を見分けるチェックリストを運用する
隠蔽/嘘/言い訳の三大悪の弊害を叩き込む
悪いことを報告したら褒める

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補足:選択肢1は、仕事の失敗ではなく、報告遅延そのものをマイナス評価します。選択肢1は評価制度にメスを入れます。選択肢2は日本側の自衛策。選択肢3と4は完全な精神論です。

参考
・村上吉文(2008)、しごとの日本語 IT業務編、アルク
・釜渕優子(2008)、しごとの日本語 ビジネスマナー、アルク

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